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大阪地方裁判所 平成7年(行ウ)23号 判決

大阪府枚方市町楠葉二丁目一二番二〇号

原告

中村勇

右訴訟代理人弁護士

梅田章二

脇山拓

大阪府枚方市大垣内町二丁目九番九号

被告

枚方税務署長 高橋芳広

右指定代理人

野中百合子

亀井幸弘

清水透

八木康彦

主文

一  原告の主位的請求のうち、課税価格一億七六三〇万四〇〇〇円、納付すべき税額三九九七万六九〇〇円を超えない部分の取消を求める訴えを却下する。

二  原告のその余の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  主位的請求

被告が、原告の相続税について、平成四年六月二四日付でなした平成二年一二月二一日相続開始に係る相続税の更正の請求に対する更正のうち、課税価格一億七〇七四万九〇〇〇円、納付すべき税額三八二〇万七七〇〇円を超える部分を取消す。

二  予備的請求

被告が、原告の相続税について、平成四年六月二四日付でなした平成二年一二月二一日相続開始に係る相続税の更正の請求に対する更正のうち、課税価格一億七六三〇万四〇〇〇円、納付すべき税額三九九七万六九〇〇円を超える部分を取消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、平成二年一二月二一日に死亡した被相続人中村清弌(以下「清弌」という。)の共同相続人の一人である。

2  原告は、平成三年六月二一日に別表1の「当初申告」欄記載のとおり清弌の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告をした。

3  右2の相続税についての課税の経緯は別表1記載のとおりである。

4  右2の相続税の申告に際しては、別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)が清弌に係る相続財産(以下「本件相続財産」という。)に含まれていた。

5  原告は、本件土地は本件相続財産に属しないことを主張して前記3のとおり更正の請求を行ったが、被告は、右更正の請求に基づく前記3の更正(以下「本件更正」という。)において、本件土地は本件相続財産であると認定した。

二  原告の主張

以下のとおり、本件土地は原告が清弌から生前に売買により取得したものであって清弌の相続財産ではないから、本件更正はこれを相続税課税の対象に含めた違法があり、原告は、本件更正について、主位的には審査請求に係る額を超える部分の取消しを、予備的には更正の請求に係る額を超える部分の取消しを、それぞれ求める。

1  原告は、昭和四〇年六月ころ、清弌から、同人の三男(原告の弟)進(以下「進」という。)が結婚するに当たり、金が必要となったので枚方市北楠葉町二九五番、田六九〇平方メートル(以下「寺内の土地」という。)を買ってほしいという申し出を受けた。原告は、親の頼みでもあり、またすぐに土地の管理もできないので、今までどおり清弌が耕作する、支払は分割でよいというので、一〇〇万円で買うことにした。

2  右一〇〇万円は昭和四〇年八月から昭和四一年七月まで八回に分けて原告から清弌に支払われたが、移転登記は経ないでいたところ、付近一帯が買い占めになり、清弌は、昭和四六年二月に原告に相談なく寺内の土地を他人に売却してしまった。

3  清弌はその後しばらくして原告に対し勝手に寺内の土地を売却したことを謝り、その代替地として寺内の土地とほぼ同面積の田である本件土地を原告に引き渡した。

4  本件土地の登記名義は清弌のままであったが、原告は、以来今日まで本件土地を耕作し、反別割合によって本件土地に相当する固定資産税を支払ってきた。

三  被告の主張

1  原告の主位的請求に対しては、課税価格一億七六三〇万四〇〇〇円、納付すべき税額三九九七万六九〇〇円を超えない部分については、更正の請求額を下回るものであるから、訴えの利益はなく、その取消を求める訴えは却下されるべきである。

2  本件土地は、本件相続財産に含まれるものであり、清弌の親族関係は、別紙相続関係図記載のとおりで、原告に係る課税価額及び納付すべき税額等は、別表2ないし7の「被告主張額」欄及び別表8記載のとおりであるから、その範囲内でなされた本件更正は適法である。

四  争点

本件土地が本件相続財産に含まれるか否か。

第三争点に対する判断

一1  原告は、その本人尋問(甲第一〇号証を含む、以下同じ。)において、前記第二、二の主張に副う内容の供述をするほか、清弌が、右売買の事実を照明するために昭和六〇年五月に「貴言状」と題する文書(甲第五号証の一、二)を、昭和六一年一一月三〇日に「証明証 契約書」と題する文書(甲第六号証)を、また、昭和六三年九月二八日には「領収証」と題する文書(甲第七号証)を、それぞれ作成したと供述する。

確かに、甲第三号証によれば、寺内の土地について昭和四六年二月九日に同月二日付け売買を原因として清弌から奈村昭英に対して所有権移転登記手続がなされていることが認められ、また、甲第六、第七号証には、売主を清弌、買主を原告として、昭和四〇年八月一三日に本件土地が一〇〇万円で売買され、清弌が同日一〇〇万円を受領したかのような記載があり、甲第五号証の一には、清弌が寺内の土地の見返り分として本件土地の二〇〇坪を原告に譲渡する趣旨の記載があることが認められる。

2  しかし、甲第三号証、乙第二号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、寺内の土地及び本件土地の売買がなされたとされる当時の売買契約書や代金の領収書は存在しないし、寺内の土地については原告への所有権移転登記手続はなされず、本件土地についても清弌の死亡に至るまで原告への所有権移転登記手続がなされていないことが認められる。

3  原告は、その本人尋問において、原告と清弌との間で本件土地について原告に所有権移転登記をする話が出たが、兄が境界の明示を妨害したためにできなかったと供述する。しかし、単なる所有権移転登記には境界の明示は必要ではないし、甲第一、第二号証によれば、本件土地二筆の公簿面積の合計はおおむね二〇〇坪であるところ、このうち、枚方市北楠葉町三二〇番一、五二平方メートルの土地は、もと同所三二〇番、三六三平方メートルの土地の一部であったが、昭和四七年一月一二日に同番二が分筆されて七〇平方メートルとなり、さらに、同年一二月一八日に同番三が分筆されて現在に至っていること、また、同所三二二番一、五九八平方メートルの土地は、もと同所三二二番、一三九五平方メートルの土地の一部であったが、昭和四七年一二月一八日に同番二が分筆されて現在に至っていることが認められるのであるから、少なくともその後は、原告への所有権移転登記手続に格別支障があったとは認められない。

4  また、原告は、その本人尋問において、寺内の土地の売買代金一〇〇万円を分割払いした年月日及び額が清弌の手帳(甲第八号証)に記載されていると供述し、甲第八号証には、年月日及び金額と思われる数字が羅列されていることが認められるが、これにはその冒頭に「勇より」との記載があるのみでその合計額も一〇〇万円ではなく一二〇万円であり、このことについて、原告は、甲第八号証に記載された最初の二〇万円は原告が清弌から借りた二〇万円の返済分であり、その余の合計一〇〇万円が寺内の土地の代金であると本人尋問で供述するが、仮にそうとすれば貸付けの返済分と売買代金とが混然と記載されていることになるが、これはいかにも不自然であり、結局甲第八号証に記載の金員がいかなる趣旨のものであるかは明らかでないといわざるを得ず、原告が寺内の土地の売買代金として一〇〇万円を支払ったと認めるには不十分である。

5  そして、原告は、その本人尋問において、昭和四〇年六月ころ清弌の三男(原告の弟)の進が結婚するに際して清弌が同人に寺内の土地を贈与しようとしたが、進が田よりも住居を希望したことから住居を買ってやることとなり、そのための金が必要だとのことで、原告に対し分割払いでもいいから寺内の土地を買ってほしい旨申し出たことから、原告は同土地を買受けることになったと供述し、進の陳述書である甲第一二号証にも同趣旨の記載がある。そして、甲第一一号証によれば、進は同年六月一〇日に宇治市の土地建物を一三七万円で買受け、同日手付金二七万円を支払い、同年七月一五日に残代金を支払うこととなっていたことが認められる。しかし、原告本人尋問の結果によれば、寺内の土地の売買代金支払日は甲第八号証に記載されたとおり昭和四〇年八月一二日から昭和四一年七月一四日にかけてであるというのであるから、その代金は進の住宅の売買代金支払日よりも一か月ないし一年後に支払われたということになるが、これでは進の新居取得の資金づくりのために原告に右土地を売却したにもかかわらず、右代金は宇治市の土地建物の代金の支払に充てることができないのであって、これ自体不自然といわざるを得ないし、原告本人尋問の結果によれば、清弌は原告に何ら相談なく寺内の土地を他に売却したことが認められるが、原告が一〇〇万円を支払って清弌から寺内の土地を買ったのであれば、そのようなことも考え難いところである。

6  さらに、甲第四号証によれば、清弌は、昭和六一年四月二一日に公正証書遺言をしており、その中で枚方市町楠葉二丁目所在の四筆の田とともに自己所有の本件土地を原告に相続させることとしていることが認められるのであり、それより前に作成されたと考えられる前掲甲第五号証の一も「貴言状」(「遺言状」の誤記と認められる。)との表題が付されていて、これには前記のとおり本件土地二〇〇坪を原告に譲渡する旨の記載があり、また、その裏面には右町楠葉二丁目所在の四筆の田を原告に譲渡する旨記載されているのであって、これら各書面の記載のほか、前記のとおり本件土地について原告への所有権移転登記手続がなされていないことも併せ考えると、清弌の意思は本件土地を原告に相続させようというものであると推認され、同人が生前に本件土地を原告に譲渡したと考えていたとは認め難い。

7  また、原告は、本人尋問において、本件相続に係る相続税の申告手続は清弌の長男(原告の兄)敬一が行ったもので、原告はその内容を知らなかったとも供述するが、右尋問によれば、原告は、相続税の申告書に原告が署名したことは認めているところであり、それ以前に前記公正証書遺言の内容を知り、本件土地が相続の対象とされていることに不審を抱いていたというのであるから、原告は、本件相続税の申告の際に本件土地が相続財産に含まれているかどうかについては注意を払っていたはずであり、右申告の際にはもちろん本件土地が相続財産に含まれていることは知っており、その上で右申告手続に応じたものと考えられる。

8  以上によれば、原告が清弌の生前に本件土地を取得したとは認められないというべきであり、本件土地は本件相続財産に属するものと認められる。

原告は、その本人尋問において、本件土地の固定資産税は原告が負担しており、清弌が寺内の土地を売却し同土地の水田耕作をやめたために中之芝土地改良区に支払うべき脱退金七〇〇〇円も原告が負担したと供述し、後者については、これを裏付ける証拠として甲第一四号証を援用するが、右甲第一四号証は、昭和四七年二月二八日付の清弌が原告から右脱退金を受領した趣旨の書面であり、「中之芝土地改良区 畑地に地目変更届出 勇分として弍百坪」との記載があるが、これが寺内の土地に関するものであるかは書面上は明らかでなく、原告は、本人尋問において、寺内の土地と本件土地とは約二〇〇メートルしか離れておらず、本件土地を含む分筆前の前記三二〇番及び三二二番の土地はもと水田であったが、このうち約三〇〇坪に清弌の自宅を建築し、残り約二〇〇坪の本件土地は畑に地目変更し、これに関連して前記のとおり分筆手続がなされ、本件土地については以後原告が耕作してきたと供述していることからすれば、右甲第一四号証は寺内の土地に関するものではなく、むしろ本件土地に関するものと推認されるのであって、原告が固定資産税や右脱退金を負担することも、原告が本件土地の耕作をしてきたことにかんがみれば、右の認定を左右するものとは言い難い。

二  原告は、本件更正のうちその余の点については明らかに争わず、前記第二、三2によれば、本件相続税の原告に係る課税価額は二億六四八九万五〇〇〇円、納付すべき税額は六九〇〇万七三〇〇円となるから、右範囲内でなされた本件更正は適法である。

なお、原告は、主位的請求として、本件更正のうち課税価格一億七〇七四万九〇〇〇円、納付すべき税額三八二〇万七七〇〇円を超える部分を取消す旨の申立てをしているが、原告は、更正後の課税価額一億七六三〇万四〇〇〇円、納付すべき税額三九九七万六九〇〇円として更正の請求を申立てているのであって、更正の請求が、納税者の側から自己の利益に申告を是正する唯一の方法として法定されている以上、本件の相続税のうち更正の請求額を超えない部分については、納税者の側からはもはやこれを是正する途はなく、納税額は申告により確定しているものというべきである。

そうすると、本件訴えのうち、右更正の請求額を超えない部分の取消しを求める部分は訴えの利益を欠き、不適法として却下を免れず、その余の請求はいずれも理由がなく棄却すべきものである。

(裁判長裁判官 福富昌昭 裁判官 加藤正男 裁判官 大島道代)

物件目録

一 枚方市北楠葉町三二〇番一

田 五二平方メートル

二 枚方市北楠葉町三二二番一

田 五九八平方メートル

別表1

相続税の課税の経緯及びその内容

〈省略〉

別表2

取得財産の種類別価額表

〈省略〉

別表3

土地の明細

〈省略〉

別表4

家屋の明細

〈省略〉

別表5

有価証券、現金預貯金、家庭用財産及びその他の財産の明細

〈省略〉

別表6

債務及び葬式費用の明細

〈省略〉

別表7

取得財産の種類別価額表

〈省略〉

別表8

相続税の総額の計算書

〈省略〉

(参考)相続税の速算表(抜粋)

〈省略〉

別紙

相続関係図

〈省略〉

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